高原の鷹 イリム視点

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――背信者の独裁に苦しむ同胞が圧政に抗い、自由と独立のため必死に闘っている。 ――同じ神を崇める兄弟姉妹を守るため。俗悪な人間の定めた世俗の法や国境を超え、神の定めたもうた掟のもと、悪しき輩と闘わなければ。そして虐げられたか弱き同胞を独裁者どもの魔の手から救い出し、正しき神の法の下に理想の国を作るのだ。  こんな大義名分のもと、全世界から同志が集い、数百ものゲリラ部隊を形成した。ある時は連携し、またある時はばらばらに、神の名を汚す裏切者どもと闘っている。    でも、僕にとってそんな建前はどうでもいい。  結局、僕たちは戦場でしか生きることができない。  血と硝煙と鉄と焔と、そして土。それらのにおいに囲まれて、殺すか殺されるかの緊張感の中にいなければ生きてはいけないのだ。  さもないと、自らの手で奪ってきた命を数えたくなってしまうから。  もう魂の底まで血で染まっている僕たちには、平和な世界のどこを探しても居場所なんて見つからない。  ひとつの身体の中で、いくつもの大きな正義と小さな感情たちが、あるいはせめぎあい、あるいは融けあいながらひしめきあって混在している。 ーー戦争とは暴力をもって行われる政治の一形態ーー  そんな普遍的な事実だってどうでもいい。  僕たちは、戦士という名の兵器の一種(ただの道具)。それ以上でもそれ以下でもない。  戦士の役割は、ただ効率よく殺すこと。殺して殺して殺し続けて、最後に自分が殺される。  その時、いかに効果的な死に方をして仲間に利益をもたらすのか。そこまでが戦士の役割だ。  そこから先は知ったことじゃない。  ただ、その終わりの時、彼があまり苦しまなければいい。  そよそよと吹き渡る高原の風に、ふとそんなことを願った。
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