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砂の蜥蜴(トカゲ)グジム視点
じりじりと照り付ける白い陽射しの下、俺は相棒と共にいつものように切り立った崖の上で獲物を待ち伏せている。偽装網をすっぽり被った彼の潜伏は完璧で、ほとんど寄り添うように隠れている俺でさえ、岩の塊にしか見えない。そのかすかな温もりと息遣いだけが彼の存在を伝えるのみだ。
荒涼とした自然の一部と化した俺達の上を、小さな砂蜥蜴が這い回る。
風もなく耳が痛くなるような静けさに、ふとガタゴトいう音が混じった。ぶるぶるという、かすかなエンジン音に砂蜥蜴が慌てるように姿を消す。
ほどなくして赤茶けた地平線の向こうに、黒っぽいしみがいくつか見えてきた。
砂埃を巻き上げ、崖下の谷を一列になって進むトラックの車列。これが今回、俺達に与えられた目標。
先頭から二番目。その一両のみを狙撃するよう命じられている。
俺は観測器を覗きこむと、読み取ったデータを相棒に伝えた。彼はこくりと頷くと、その丸い目をすぅっと細めて照準器に目を当てる。
瞬時に空気がぴりりと引き締まり、彼が狙いを定めたのがわかった。
こうなると彼は過集中状態に入り込み、標的以外はまるで見えなくなる。
代わりに周囲を警戒するのが観測手である俺の役目だ。
彼の持つ狙撃銃は一発撃つ度に手で排莢、装填をするボルトアクション式。連射がきかず、近接戦に持ち込まれてしまえば手も足も出ない。
だからそうなる前に俺が彼を守らなければ。何があっても、絶対に。
俺は決意を胸に、愛用の自動小銃を手元に引き寄せた。
我知らず、グリップを握る手に力が入る。
白兵戦になるような戦いには参加せず、互いの顔を肉眼で見ることもない。目標を一方的に狙い撃つ狙撃兵は憎悪の対象となりやすい。
捕獲されれば捕虜として扱われる事はまずあり得ない。間違いなく死んだ方がマシだという目に遭わされながらも簡単には死なせてもらえず、延々といたぶられ続けるのが常なのだ。
そうやって嬲りつくされた、「かつて人間だったモノ」を敵味方問わずにいくつも見てきた。彼をそんな目に遭わせるくらいなら、いっそのこと。
いや、俺が彼を完璧に守れば良いだけだ。どんな敵からも、何があっても。
遠い故郷の村を出る時、そう誓った。
自ら立てたたった一つの宣誓さえ守れなければ、俺は生きている意味がない。
故国はとうの昔に瓦解して、生まれ育った村は貧困と憎悪に飲まれてもう二度と帰ることはかなわない。
部族の掟に縛られて、帰るべき場所を失った俺は、棄てたはずの掟をよすがに生きている。
この広い世界で、彼の隣だけが俺に許された居場所なのだ。
他の誰でもない、この俺自身がそう決めた。
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