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とりとめもない事を考えている間にも、五感は周囲の情報を敏感に拾っていく。任務の妨げになるものがあれば、瞬時に取り除かねば。
十分以上は経ったような気がするが、実際にはほんの数秒にも満たなかっただろう。くたびれた紙袋を叩き潰すような気の抜けた破裂音が俺の意識を引き戻す。
彼の肩が小さく跳ねたかと思うと、直径7.62mmの弾頭が飛びだした。
破壊の意志だけを背負って秒速800mの速さで突き進み、かすかな蒸気が跡を曳く。
続いて響いた轟音。観測器を覗くと炎上した車両から人の形をした焔がいくつも転がり出た。後続車両が止まりきれず、追突して同じように炎上していく。
更にいくつかの破裂音が響くたび、別方向から放たれた正確無比なライフル弾が哀れな標的に襲いかかった。車から飛び出す人影が、音と同じ数だけ脚や腹を押さえて転がりまわる。
どうやら別の場所に潜伏していた仲間たちの狙撃も成功したようだ。
現場は消火も救助もままならず、炎と煙のうずまく光景はまるで地獄の有様だ。あの様子なら、とてもこちらにまでは目が届くまい。
「任務完了。嗅ぎつけられる前に行くぞ」
彼の耳元で低く囁き、這いつくばった姿勢のままゆっくりと空薬莢を拾い集めながら後退する。
カタツムリよりはいくらか早いが、興奮したカブトムシよりははるかに遅いペースでじりじりと後じさると、灌木の茂みの陰に入ったところで慎重に立ち上がった。
警戒を解かぬまま斜面を下り、渓谷に続く道の半ば、茂みの陰になった洞窟の中へと身を滑らせる。中から入口を小枝で隠し、ようやく大きく息をついた。偽装網を外した相棒のあどけない顔が露になる。星空を閉じ込めたような紫紺の瞳が眩しい。
目を合わせると、肘をすり合わせるいつもの合図で笑いあった。今日も無事に任務を達成できたようだ。
「これで少しは砲撃もマシになるかな?」
「わからん。輸送ルートはこれ一つではないはずだからな」
今日狙撃したのは政府軍の輸送部隊。渓谷の向こう側の基地から湧いて出て、山間に広がる村々に襲撃をしかける機甲部隊に必要な特殊燃料を積んでいた。
ここで燃やしてしまえば、それだけ村に降り注ぐ砲弾の数は減らせるはず。もちろん、いずれは基地ごとつぶしてしまわなければならないが。
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