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高原の鷹 イリム視点
爽やかな風が若葉のにおいをはらんで柔らかに僕の身を包んでくれた。
どこかで花が咲いているのだろう。雨上がりのぬるい空気の中、かすかに甘い香りが漂っている。
これは地中深くに根を張った土竜豆。雪解けを迎えたばかりの今の季節に山全体を淡い紫色に染めてくれる。
抜けるように澄んだ空には雲一つなく、大きく翼を広げた影だけがくるりくるりと輪を描いている。それが唐突に地上めがけて隕石のように落ちてきた。かすかに響く小動物の断末魔。
だだっ広い赤茶けた草原を見下ろす崖の上、腹這いになった僕の戦闘服にじっとりとした湿気がじわじわとしみ込んできて気持ち悪い。雪解けの高原はいたるところが泥だらけだ。
でも今は身動きするわけにはいかない。僕の獲物はまだ影も形も見えぬのだから。
どのくらい経っただろう。かすかなエンジン音が僕の鼓膜を揺らした。
ついにその時が来たようだ。
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