吸い尽くす者

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これは、私が以前勤務していた会社で体験した出来事だ。 以前の企業でそこそこ長く勤務していた私は、ある日、新卒の新人の研修を担当することになった。 大学を卒業したばかりだという彼は、とても爽やかに笑うスポーツマンタイプの青年だった。 真面目で素直である彼は、業務をすぐに覚え、瞬く間に会社の貴重な戦力となる。 しかし、そんな彼に対して、1つ会社は困ったことを抱えていた。 それは、彼は営業の社員なのだが、営業先のオフィス移転などで彼が花束を持っていくと、何故か到着する頃にはいつも花束がすっかり枯れてしまっているのである。 新築祝いで花輪を郵送注文した際は、彼が発注した花輪だけが枯れ。 オフィス用にと彼が持って来てくれた観葉植物の草木は、何故か彼の近くにおいたものだけが直ぐに枯れ果てた。 「もしかしたら、彼がつけてる香水やコロンとかが植物と合わないんですかね」 いつしか、そんなことを話す様になった社員達。 それ位、草木が長くもたない青年として彼は有名になった。 数日後、彼はある重要な社外のコンペを任されることになる。 彼はコンペが行われる企業に出向き、社内には私を含め数名のスタッフが残っていたのだが。 ある時刻になった瞬間、私達の目の前で、彼のデスクの近くにその日の朝置かれたばかりの観葉植物がみるみる枯れ始めたのだ。 タイムラプスの様に枯れていく植物。 あまりに突然の――不可思議な現象に、社員達は皆、パニックになる。 だが、何とか互いに声をかけあい……取り敢えず、枯れた植物は社外の廊下に出す等して、何とか乗り切る私達。 それから数時間後、帰社した彼に社員達がそれとなく話を聞いてみたところ、その時間は彼のプレゼンが開始した時刻だったらしい。 今思えば、他の植物達がそれまでに枯れたタイミングも、彼が何かを発表したり、新しい会社との取引を申し込みに行った時等と重なっていた様に思う。 その日以降、なんとなく彼の近くに植物を置かなくなった私達。 すると、あんなに元気だった彼は次第に元気がなくなり、営業成績も下がる様になってきた。 彼はその後、何も言わずに会社を辞めてしまったが、その日以降、植物が直ぐに枯れることは無くなった。
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