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私が従兄弟の孝君と体験した出来事だ。
私より2つ年下の従兄弟の孝君には、学生時代に結婚した、美奈子さんという奥様がいた。
庭の手入れが趣味だった美奈子さんは、赤い花が大好きで、特に彼岸花を気に入っていたという。
なので、孝君の家の庭は夏になると彼岸花でいっぱいになっていた。
特に、結婚当初等は、孝君が彼岸花の球根をよく買って帰って来ていたらしい。
それ程、仲の良かった二人。
私は、最初は交流を続けていたが、転居に伴い次第に疎遠になっていった。
そうして、昨年。
連絡をあまり取らなくなってから5年後、孝君から美奈子さんの訃報を知らせる葉書が届く。
通夜に参列した私に、美奈子さんは飛び降り自殺をしたと教えてくれた孝君。
その日は何事もなく過ぎ去り、それから数日後。
再度、孝君の家を訪れた私は、我が目を疑った。
孝君の家は3階建てで、リビングが吹き抜けになっているのだが、その吹き抜けの1階部分に――屋内にも関わらず、長く伸びた彼岸花が群生しているのだ。
「おかしいだろ。抜いても抜いても生えてくるんだよ」
苛立った様にそう告げる孝君。
そうして、彼は客人である私にお茶を出してくれたのだが、自分も一緒にお茶を飲もうとカップに口をつけた瞬間、激しく咳き込んだ。
「なんだよ、これ!」
なんと、孝君のカップの中に彼岸花の花弁が浮かんでいたのだ。
「美奈子が死んでから、ずっとこうなんだ」
頭を抱える孝君。
なんでも、ビジネスバッグや、入浴中の浴槽等至る所に彼岸花の花弁が現れるらしい。
特に夜は、就寝中――違和感を感じて目を覚ますと、口の中に彼岸花の花弁が口に入っていた事もあるそうだ。
「このままじゃ、ノイローゼになってしまう」
そう頭を抱えて呟いた孝君。
私は、彼にかける言葉も見つからず、彼の家を後にした。
現在、孝君は美奈子さんと暮らしていた家を売り、都内のアパートで一人暮らしをしている。
そこには一切植物などは置いていないそうだが……先日、布団をしまう際に押し入れを開けたら、奥に――長く伸びた彼岸花が1輪、花を咲かせていたらしい。
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