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僕は妻を、世界で1番愛しています。
妻のためなら死んでもいいと、本気で思っています。
妻以上に理想の女性は、この世に存在しないと思っています。
妻にも、自分を同じように思って欲しいとは、言ったことはありませんでしたが、毎日寝顔を見る度に祈り続けていました。
でも、結局僕の一生分の恋は、同じ戸籍に入っても変わることはなかったのでしょう。
妻が書き遺したWeb小説が、そう僕に教えてくれました。
そうか。妻の理想の男性は、僕ではなかったのだと。
俺様で、自信たっぷりで、常に豪快。それでいてユーモアのセンスがある。
本当はそういう男に、妻は愛されたかったのでしょうと、僕は現実を突きつけられました。
もう決して続きが書かれることのない、妻のWeb小説のアカウントには、そんな男にばかり愛される、様々なヒロインが幸せになっていく物語ばかりが詰め込まれていました。
妻の骨壷を抱きながら、僕は何度も繰り返し妻を求めては小説を読み、そして傷ついていきます。
決して僕が言わないようなセリフ。
僕としたことがないような、寝室での激しい行為。
妻が書いた文章だと考えれば、それらを全て愛することもできました。
……そうする努力をした……というのが、正解かもしれません。
でも情けないことに僕は、文章で作られた存在によって、何度も胸を締め付けられるのです。吐いたことも、あります。
「もう、忘れればいいじゃないか」
僕の事を知っている人は、僕が知っている彼ららしい親切で、そう何度も話しかけ続けてくれました。
それは、分かっているのです。
でも結局僕は、それでも妻を愛し、妻の文章を愛し、妻が作った世界に傷つき、男に憎しみを抱こうとするのです。
そうやって僕は、妻によって「異世界転生」という概念を、心に刷り込まれました。
死んだ魂が、ここではないどこかの世界へと旅立ち、新たに幸せになっていく。
そんな小説をたくさん、妻が遺していたのです。
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