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それからすぐ、男性は驚く量の朝食を持ってきてくれました。
つやつやの黄色いオムレツに真っ赤なトマトケチャップ。
ほかほかのクロワッサン。
純白の牛乳と漆黒のコーヒー。
宝石のようなフルーツポンチ。
全部、見た事があるメニューでした。
「王子。何かございましたか?」
「え?」
「いつもなら、淡々とお召し上がるのに、今日は渋い顔をされていらっしゃるので」
「あ、いや、何でもない」
僕は急いでフォークを手にし、オムレツを切り裂きました。
その瞬間、とろりと卵が流れ出しました。この半熟具合も、間違いなく自分が知っているものでした。
「食事が終わる頃、また戻って参ります」
執事服の男性が立ち去ってから、僕は一口サイズにすくったオムレツを口に入れました。
やはり、そうでした。
妻と初めて結ばれた時に泊まった、少しおしゃれなホテルで食べたルームサービスの朝食と同じ味がしたのです。
「まさか、ここって……」
僕はいそいで、目をつぶり、集中しました。
僕の推測が正しければ、もしこれが異世界転生の場合は、体の持ち主の記憶がある可能性が高かったからです。
「間違いない。あの小説の登場人物だ」
ウィリアム王子というのは、妻の小説アカウントの中で最近更新したらしき小説の、ヒーローの名前でした。
金髪碧眼でシックスパックという特徴も、一致しています。
それに、イギリスのホテルのような王子の寝室も。
「僕は、妻の小説の中に転生したのか?」
ほんの少しの材料ではありましたが、そう発想してしまうくらいには何度も繰り返し、妻の異世界転生の物語を読み続けてきました。
だからでしょうか。
自分の考えが絶対的に正しいという自信すらあります。
つまりそれは。
「僕は、死んだということか?」
異世界転生者はほとんど死者ですから、ここにいる自分も死んだと考えることも、なんの不思議もありませんでした。
「え、ちょっと待って」
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