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信じられませんでした。
妻がそこにいました。
声も、顔も何もかもが、妻そのものでした。
「私は医師をしております」
「加奈……?」
「え……?」
「加奈だよな……?」
僕は、妻の名前を数ヶ月ぶりに呟きました。
最初目を見開いていた、妻と瓜二つの医師は、スチュワートに「二人きりにしてもらえますか?」と言いました。
スチュワートはすぐに「分かりました」と言いながら去っていきました。
とても都合の良い、小説の登場人物らしい執事でした。
そして二人きりになった時、僕は体を起こし、彼女は僕を支えるためにベッドにかけ寄りました。
それから、お互いがお互いの顔をしっかりと見つめ合いました。
普通はここで、「どうして?」という言葉が来るのでしょうが……違いました。
彼女は、ウィリアム王子の顔をしている僕を見ながら、こう言いました。
「あなたなの……?」
「やっぱり、加奈か!?」
彼女……加奈は大きく頷きましたので、僕は力一杯抱きしめました。
僕が知っているぬくもりと感触、そのままでした。
「どうしてあなたがここにいるの!?」
「それは僕のセリフだよ。君は天国に行ったかと思ったよ」
「私も行かなきゃって、思ったわ。でも……」
加奈はそう言いながら、僕の頬に触れました。
「私のお葬式で、あなたが私を愛してるって言ってくれた時、どんな形でもいいからあなたといさせて欲しいって願ったの。そしたら、この小説に転生してたの」
僕には、加奈が僕と一緒にいたいと、願ってくれたことが、まず信じられませんでした。
もちろん、そこからどうして、小説に転生という流れになるのかも。
「どういうことだ? 君は……僕と違う男と結ばれたいから、この小説を書いたんじゃないのか?」
僕は自分で言いながら、自分をさらに深く傷つけました。
「どういう意味?」
今度は、加奈が尋ねてきました。
その声色に怒りが混じっているのが、僕には分かりました。
「君が作ったウィリアムという男は、僕と正反対じゃないか。イケメンで、お腹も出ていなくて、何をやるにも自信に満ち溢れていて……何をしても完璧にこなす……。こういう男に抱かれたかったんだろ?」
また1つ、僕は自分の心に大きな傷を自分でつけました。
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