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2 変わり者の所以
アリステア王国では、蛇が忌み嫌われている。中でも紫色をした大蛇のアヌーサは、アリステア王国の創生主でもあるテス王を食らったとされており、嫌われると同時に酷く恐れられていた。
だが俺は幼少の頃、森で散策していた時に蛇と友達になった記憶がある。
森で迷子になったか何かで帰れなくなった俺の元へ現れた紫の蛇は、俺を森の出口まで道案内してくれた。
蛇に礼がしたかったが、城の人間が現れると同時に姿を消してしまった。
以来、俺は紫色も、蛇も好きになった。誰も理解は示してくれず、変わり者だと笑われ、呆れられたが、それでも構わない。
俺は、いつかあの蛇に会えるのならば……。
その時、なぜか蘇るのはあのリズールだった。
紫色をした目と髪は美しく、蛇が人になったらあんな姿だろうかとありえない妄想が働く。
「ルベリー」
庭園を眺めていたところへ、威厳のある声が響く。
「父上」
ラフ王は王というよりも衛兵のような鎧を身に着け、全てを見透かす目をしながら近づいてきた。
「どうだ。リズールとは上手くやれそうか」
「上手く……といいますか……」
リズールに口づけられたことが蘇り、父親の前でうっかり赤面しかかったのを寸前で誤魔化す。
「父上は、なぜリズールとの婚約を私に勧めるのですか」
「お前は紫と蛇が好きだろう。リズールはアヌーサの血を引く男だ」
「父上、それは本当ですか」
内心歓喜しそうなのを堪え、平素を装って尋ねる。
「ああ。あの髪と目の色が証拠だ。リズールは完全に人の形を取っており、蛇の姿を取っていたのは遠い祖先であって自分はできないというが、本当かどうかは怪しい。王族の命と引き換えにお前との婚約を望まれたのだからな」
「私はいわば、人質ということですか」
「というより、あの男にとってはお前が目的のような気もするが……」
「私が……」
――俺はあなたが欲しい。その意味を、よく考えて下さい。
リズールの台詞が脳内で反響し、こそばゆいような感覚が込み上げた時、ラフ王の言葉が一気に熱を冷ました。
「お前があの男を仕留めれば、王位継承権を今より確かなものにしてやる」
「私が断ったらどうなるのですか」
意外でも何でもなかったのだろう。ラフ王は一つ息を吐くと、ふっと笑う。
「王族からの追放も免れないな。お前は国の和を乱す」
「お言葉ですが、好きなものを好きだと言えない国など、こちらから願い下げです」
きっぱりと言い切ると、ラフ王の目に一瞬冷たい光が宿る。
打ち首にされても仕方ないと思ったが、王は背を向けて言い置いた。
「よく考えて判断することだ。お前がやらなくとも、他の誰かがやればいいことだからな」
遠ざかる背中を見送りながら、紫の目を思い出し、溜息をついた。
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