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3 溺れるほどに愛されて
リズールが再び姿を現したのは、その日の晩のことだった。
なかなか眠りに着けずに幾度か寝返りを打ち、ふと開け放った窓を見やると、月明かりを背にして男が立っていた。
「リズール……?」
きっと彼だと思って名を呼ぶと、男はゆっくりと近づいてきて、俺の頬を撫でる。
紫色の目が、悲しみに似た感情を灯していた。
「リズール、なぜそのような目を?」
「ルベリー王子、あなたが国を捨てようとしているからです」
「元より、私……俺は、この国に愛着などない」
「俺の……せいですか」
「自惚れるな。俺が自分で決めたことだ。お前のせいになどしてたまるか」
「いいえ、自惚れます。あなたは昔のままだ」
「お前……やっぱり……」
はっと目を見開いた瞬間だった。風が沸き起こり、目を開けていられなくなる。
だがそれは一瞬のことで、次に目を開いた時には、そこには男の姿はなく、代わりに一匹の大蛇がいた。
月明かりに照らされ、大蛇の体についている宝石のような石が、きらきらと美しく輝いた。
まるで神の化身のようだ、と見惚れていると、大蛇――リズールは俺の方へ近づき、共寝するようにベッドの上にとぐろを巻いた。
「リズール?」
「この姿で喋るのは少し勇気がいるのですが、あなたはとても嬉しそうに見ているから、このままで」
指摘されて気恥ずかしくなったが、幼い頃の恩人兼友人と再会できて喜びを抑えられるわけがない。
俺はリズールの体に指を伸ばそうとしたが、威嚇するように歯を出されて引っ込める。
「気をつけて下さい。特にこの石には触らないように。猛毒ですから」
「猛毒?」
「はい。人間が触れれば一瞬で昏倒します」
俺は恐ろしさよりも、綺麗な石に触れられないのを残念に思った。
「ここならいいだろう?」
石のない頭の部分を撫でると、リズールは気持ちよさそうに目を細めた。
「あなたは本当に蛇がお好きですね」
「お前のせいだ」
くすくすと笑い合い、じゃれ合った後、リズールがぽつりぽつりと話し出した。
「少し、俺の話をしましょうか。俺たちアヌーサの子孫は、誰も俺のように人語を話す者はいません。人の姿に化けることも、俺しかできません。あなたを想ううちに、いつの間にかこの力を得ていました。皆は俺のことを気味悪がっていましたが、俺はこの力をありがたく感じています」
「リズール……」
またどこからか風が吹き、一瞬の間にリズールは人の姿へ戻っていた。
「こうしてあなたを抱き締めることができるから」
「あ……」
引き締まった体が、俺を包み込むように抱き締める。
初対面で口づけられた時は戸惑ったが、思えば不快な感情は少しも湧いてこなかったし、今だってまるでパズルのピースがぴたりとはまり、一枚の絵になるようにとてもしっくりくる感じがあった。
「ルベリー様、俺はあなたが欲しい。応えてくれますか?」
「リズール、俺、は……」
王族の誰もがそうなのかもしれないが、そういうことをするのは結婚後と定められており、俺も例外なくまるで経験がなかった。
リズールとしてみたい、でも怖い、という気持ちを持て余すうちに、痺れを切らしたのか、リズールは俺をゆっくりと褥に押し倒した。
「あなたが拒んでも、俺はあなたを俺のものにするつもりですけどね」
「え、リズー……んぅ……」
最初にされた時とは違うやや強引な口づけにびくりと肩を震わせると、リズールの大きな手がバスローブの合わせ目から潜り込んでくる。
「あっ、……めだ、リズー……っぁあっ」
制止の声も聞かず、リズールの指は胸の尖を摘み、反対の手は足の間のそこを握る。
誰にも触られたことのない箇所を触れられるだけでも恥ずかしいというのに、リズールは容赦がなかった。
「やっ、待て……っぁう」
「持ちません。あなたが大きくなるのを、どれほど待ち侘びたか。おかげでもう俺のも」
俺のそこを扱きながら、リズールは自分のものにも触れさせてくる。
そのあまりの熱さに驚くとともに、恥ずかしいような、嬉しいような感情が沸き起こり、ついつい口から零れた。
「うれ、しい……」
「っ、ルベリー王子」
「ひぅっ……!」
感極まったように呼ばれたかと思うと、双丘を割り開かれ、奥のそこに指を突き入れられる。
「まっ、……な、にを」
「ここに、入れるんですよ」
「あっ、ぁあっ」
リズールのやや強引な、底なしの愛撫は明け方まで続き、中に挿入された時にはそれだけで意識を飛ばしてしまうほどだった。
「リズール、リズールっ」
繰り返し彼の名前を呼びながら、好きだの愛しているだの、リズールに誘導されるままに口にした気がする。
リズールが零れるような笑顔を浮かべていたから。
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