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昔、私の祖母の家の近くには、小さな地蔵堂が建っていた。
しかし、再開発の煽りを受け、取り壊されてしまうことになった地蔵堂。
それを哀れに思った祖母や地元の有志達は、地蔵堂の跡地に姫りんごの木を植えたという。
それから何ヶ月も経ち――丁度姫りんごの木が伸び、果実が実った頃。
再開発後の地域の様子の視察に、再開発の担当者が訪れた。
自治会長に案内され、町内をぐるりと見て回る担当者。
その際、彼は地蔵堂の跡地の近くを通り掛った。
すると、地蔵堂の前を通り過ぎようとした瞬間、不意に担当者が足を止める。
そうして、
「美味そうじゃないか……」
というが早いか、丁度実っていた姫リンゴの果実をもぎ取り、止める間もなく口に運んだ。
一口、その果実を口にした瞬間、大きな歓声を上げる担当者。
彼は、次々と木になっていた姫リンゴの実を取っては口に運んでいたそうだ。
慌てて自治会長が駆け寄った時には、担当者は顔中を果汁塗れにして、姫リンゴの実を貪り食っていたらしい。
その後、姫リンゴの実の味をいたく気に入り、なんと祖母の暮らしていた町へと引っ越してきた担当者。
現場に居た自治会長は、後にその時のことをこう振り返った。
「きっとあれは、魅入られたんだ。だって、あの人が食べた姫リンゴの実を見てみたら……お地蔵さんの顔をしてたんだもの」
その時から、姫リンゴの木は何故か実が成らない筈の時期でも一つだけ成っていて――担当者は姫りんごの樹を毎日拝み、暮らしているらしい。
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