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③
女の子を2人育てた親として、やはり感じるのは
私も含め女性の方がずぼらだという事だった。
特に女性同士が集まるとそれは顕著に現れる。
それがいけないとか悪い事だと言っている訳ではなく、そのような所はそもそもの最初から女性という生物に備わっているものなのだ。
だが、不思議な事に女性は1つ好きなものが出来たら人が変わったようになるのを私自身の経験から知っている。彼氏が出来た、推しが出来た。興味がなかったものに興味を抱き、夢中になり始めた、など、きっかけは何でも良いのだけれど、そのようなものとの出会いがあれば女性は一瞬で変化する。
例えば、幼虫から蛹、蛹から成虫へと過程を踏む昆虫の生命の法則があるけれど、
女性の場合、好きなものが出来た瞬間から、
幼虫から蛹の過程を省いていきなり成虫へと変化する事が出来る生き物なのだ。
ただ、女性の私が言うのもなんだけど、
変化した後からが女性の面倒くさい所だ。
ようするに変化に慣れ始めると、本来持っていたもの、例えばずぼらな所などが徐々に現れて来る。それはそうだ。だって元から備わっているのだから仕方がない。変化の過程でそれが隠れていたに過ぎないのだから。
男性はそんな女性の一面を見たら幻滅し辟易するだろう。でもそれが女性という生き物なのだから、ある程度は許し諦めた方が互いに良い関係を保てるというのに。世の男性はわかっていない。わかってくれもしない。それは男性の本質が夢想家なせいかも知れない。リアリストな女性の本質を理解しろというのがそもそもの無理な話なのだ。けれど世の中の人間は男性と女性の2つの性別しか存在していないのだから、女性の変化の美しさを一生、夢心地で見守って欲しいものだ。そうでなければ未来永劫、人間としての繁栄など望める術もない。
そのような女性達が7割も暮らしている寮で私達夫婦は新たな人生の1ページを開く事となった。
占い師マリカの話を耳にしたのは、寮母になって2週間が過ぎた、朝の食堂での事だった。
3回生の女の子2人が朝食を食べながら、スマホで今日の運勢を確かめていた。
「マリカ再開しないのかなあ」
「占い?」
「うん。マリカってさ。私達が高校生の頃、めっちゃ流行ってなかった?」
「流行ってた流行ってた」
「SNSでクソ人気あったよね」
「うん。実際、よく当たってたし」
「マリカって占い辞めたんだっけ?」
「SNSでは、ね。占い自体は続けてるみたい」
「ふ〜ん。そうなんだぁ」
この3回生の2人は同部屋で、名前は木下ゆかりと名取恵子と行った。木下は北海道出身で名取は福井出身だ。一回生の頃から馬があったようで、
本人達の希望で寮では3年間、同部屋だった。
私はマリカという名前に興味が引かれ2人にお茶を持って行った。
「あ、ありがとうございます」
「2人って本当羨ましいくらい仲が良いわね」
「そうですかぁ?」
恵子が笑いながら言う。
「なんか夫婦みたい」
私がいうとゆかりが、
「おばさんこそ、旦那さんとラブラブじゃないですか」
「まぁね」
そういって笑って見せた。
「朝から惚気ですか」
恵子が言った。
「良いなぁ。私もずっと一途に愛してくれる彼氏欲しい」
ゆかりが言う。
「私もぅ」
「2人なら大丈夫よ。きっと一途に想ってくれる彼氏出来るって」
「そうだと良いんだけどなぁ。そしたら、ゼミもテストも頑張れるのに」
恵子がいうとゆかりが、
「男で全部決まるのかよ」
といい、私達は笑った。
「所で話は変わるけど、さっき占いの事話していたよね?」
「あぁ。マリカの事ですか?」
「そうそう、そのマリカ」
「めっちゃ有名な占い師なんですよ?まさかおばさん、知らなかったとか言わないでくださいね」
恵子が言った。
「ごめんなさい。おばさん全く知らないの」
「それ、かなりヤバめですから」
ゆかりが恵子の方を見て同意を求めた。恵子も頷いた。
その後、私も席に座り、2人からマリカの講義を受けた。
「凄い人なんだね」
「そうなんだけど、占いの館まで行くのが大変だし、めちゃくちゃ待ち時間も長いらしくて」
「そんなに人気なら料金も高そうね」
「占いをしてもらう時間によって、料金も違うみたい」
恵子が言った。
「けど、確か、最低料金は1万じゃなかったっけ?」
ゆかりはいい、冷めたであろうお茶を一口啜った。
ハモるようにご馳走様でしたと2人がいい、立ち上がった。私は座ったままお膳を下げようとするのを止めた。
「今朝は2人に良い事を教わったから、片付けくらいおばさんにやらせて」
2人はありがとうございますと柔和な笑みを浮かべる。
「マリカに占って貰うんですか?」
恵子が尋ねる。
「どうかなぁ」
「旦那さんとラブラブなんだし、占う必要なくないですか?」
私の言葉に間髪入れずにゆかりが聞いてくる。
このゆかりって子はまだ素敵な恋を知らないのかも知れない。
「占って貰うとしたら、家族の事かなぁ」
「確か、お子さん3人いらっしゃるんですよね?」
「うん。男1人と女の子2人ね」
「良いなぁ。私子供好きだから最低3人は欲しいかなぁ」
ゆかりは1人っ子で育った為、兄妹が欲しかったと前に話していたのを耳にした。幼少期からずっと寂しい思いをしながら育って来たのかも知れない。
「19歳で初子の長男を産んだから、最初はかなり戸惑ったけど姑も協力的だったから何とかなったけど、それがなかったら、本当、大変だったと思う。10代だっし体力だけはめちゃくちゃあったから、乗り切れたって感じ」
「体力かぁ」
恵子がぼそっと呟いた。
確かにこの子にとって体力はもっとも高いハードルに違いない。直ぐ風邪を引くし、体調を崩しやすく休みも多い。小さい時に心臓病を患ったとかで、備わっている根本的な体力が人より弱いのだろう。
「ま、実際、産んだから産んだで、その時に、この子の為にって、覚悟が出来るわよ。そうなれば、後は何とでもなるから心配いらないわ」
私は席を立ち、お膳を1つに纏めた。恵子はそうですかねぇと言いながら、私は無理かもなぁと寂しそうに呟いた。
「なら私が手伝ってあげるよ」
とゆかりが笑いながら言う。
「そうだね。3人も4人も変わらないものね」
その時が来たらよろしくねと恵子はゆかりに微笑みかけた。
そんな2人を見送った後、私はお膳を片付けた。
洗い物は主人の仕事だったが、今は、寮生に呼ばれて部屋の電球を取り替えに行っている。
入れ替わるように食堂に入って来た男子寮生におはようと声をかける。
「朝食、直ぐ用意するね」
「おはようございます」
「今日もご飯大盛りで良いわよね?」
「はい。お願いします」
私はそさくさと支度を始めた。
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