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新潟県警の刑事部に異例の出向を命じられた俺は、人生6回目の引越しとなった。 組織の事を知らない姉は、能天気に美味い米を送れなどと餞別付きで命じてきた。確かに、異動してから米は何処にいっても東京よりも遥かに美味くて安い。今まで食べていた米は、何だったのかと疑いたくなった程だ。 そして、何より自分の目を疑ったのは上司だ。 俺の役職は、県警本部長専属の運転担当警察官だった。だから、上司というのは当然本部長ということになる。 その本部長が、あの泣く子も黙る黒岩警視正だったのだ。 どういうお上の策かは知らないが、黒岩警視正が俺を指名したと考えるのがストレートだろう。 これは、幸か不幸かどっちだろうと国定に連絡したらあっさりと、「不幸だろ」と言われてプツリと切られた。国定も、公安に配属されてからなかなか連絡が取り難くなった。 だが上司としての黒岩は、さすがと舌を巻く切れ者であった。が不幸な事は、その人格の扱い難さだ。とにかく、呼吸をするのも辛くなるほど神経を使う。その観察眼の鋭さのせいだ。人間離れしている。怖い。そう毎日感じた。 そして、ひょんな事にあの焼鳥屋の黒髪女の正体が、こんな所で判明するとは…。 彼らは同門の大学の先輩後輩であり、彼女は医者だった。能力は認めるものの、やはり人格は破綻しているのじゃないだろうか。変人の知人は間違いなく変人だった。 二人揃うと、ブラック&ブラックなのにグレーになる。ハラハラドキドキの危ない橋を渡るのも、一度や二度ではない。そんな状況に晒される度に、俺の忠誠心を試されている気になる。 そんな二人は、いつしか『ダブルジョーカー』と呼ばれるに至った。名物コンビと言うべきか。 いや、国定の「不幸だろ」という声が聞こえてくる。 「だよな…。」
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