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 「さっきまで一緒に、あははおほほって騒いでたのにさ。急にあるってくって置いてがれんねー。おっかしいだっぺ?」  「そっけ?したっけ、そんな奴らかっぽちめぇー。しゃんめー、しゃんめー。あぎらめろぉ。」  「んだけんと…。(ごう)ちゃん、もうすぐいなぐなっちゃうべ。したら、ぼっちんなる…。」  「(こう)は大丈夫だ!」  「⁈ 頭にぐる!あんたに何がわがんの⁈」  「わかるさ…。(こう)のことは、何でもわかる。おめだって、俺のごともわがっぺ。」  「…うん。」  幸が、俺のことを真っ直ぐに見返したその目は、見えない夕日のように赤かった。  目の前の太平洋は、広く地平線まで凪いでいる。この海辺に、郷はどれだけひとりで泣きに来たかわからなかった。  さしたる災害もない気候の穏やかなこの土地に、母は暴力を振るって愛人を殺した男から逃げのびた。追いかけて来るのを恐れてびくびくとしながらも、姉と三人で生きて行こうとしていたが、呆気なく父親だった男は逮捕された。  戸籍上の父親でも何でもなくなった男だが、世間が容赦なく三人に襲いかかってきた。俺たちは、何も悪くないのに。  俺は、長男だが2つ上の姉も母も気丈な性格で、二人とも男まさりだった。そのせいか、俺は女の子のようだと言われるくらい、優しく大事に守られて育てられてしまった。  それでも、性格は一本気で真面目。とても優しいのに、生真面目なんて女の子にとっては厄介な存在だ。 誰にでも優しい。本気で心配してくれる。でも、誰かのものには(つい)ぞならない。  幸の母は郷の母親と同じく、この土地の日本を代表する大手企業の工場で一緒に働いて仲良くなったので、俺んちの内情を知っている唯一の母の友人だった。  自然と俺と幸は仲良くなり、同級生にも冷やかされ妬まれ、いじめられる幸のことも庇った。幸は、話しは合うし可愛いと思う。けれど俺は、誰かと付き合うと言う気持ちには到底なれなかった。  高校3年の9月、採用試験を受け合格率8倍の難関に見事合格した。  警視庁の警察官採用試験に合格した俺は、この4月から警察学校に入学する為、この優しい海の見える土地を離れる。  これが、人生二度目の引越しとなった。
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