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「婚約が成立したのは俺が十歳ぐらいだぞ、そんな意図はなかっただろうさ」
将来を見据えて、十四歳のときにグレニスタ伯爵家へやって来た。学院に通いながら執事見習いとして仕え、次期伯爵を支えることになった。リズベットが八歳のときである。
「……ダグは、そのころからわたしをそういう目で見ていたの?」
「そんなわけないだろ。俺は幼児愛好者ではない」
ピシャリと断じる。ダグラスは大袈裟に溜息をついて、リズベットの傍に腰かけた。
「ずっと見てきたよ。夢見がちでふわふわしているが、きちんと他者を思いやれる。使用人に対しても階級を超えて分け隔てなく接することができるし、頭を下げることも厭わない。危なっかしくて心配になるぐらいだけど、そこは俺がなんとかすればいい。そう思うようになった」
「わたしは合格なの?」
「主としても、女としても、俺は極上だと思ってる」
直球の言葉に一気に体温があがり、シーツの端を引き下げる。唯一、表に現れていた瞳すら隠してしまったリズベットは、見えない視界の向こう側でダグラスがかすかに笑うのを感じた。
「いつまで隠れているつもりなんだ。婚約者との顔合わせだぞ」
「なによ意地悪。顔も知らないどころか、嫌ってぐらい知っている相手じゃないの。黙っているなんてひどいわ」
「嫌味ぐらい言わせろよ、こっちは婚約者が別の男に気があると思わされてたんだぞ」
「そんなの勘違いしたほうが悪いのよ。わたしはダグのことしか見てなかったのに」
「そういう可愛い台詞は顔を見て言って欲しいんだが」
ダグラスの手がシーツを剥ぎ取る。
そうはさせじと押さえるリズベットだったが、力では敵わずあっさり頭部が露出した。
黙り込むリズベットを見て、ダグラスもまた言葉を失ったようだ。彼を驚かせられたことで、すこしだけ溜飲を下げる。
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