没落予定の伯爵令嬢は極悪執事さまがお好き?

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 グレニスタ伯爵は没落待ったなしの家である。  お人好しの父が、世話になった恩師の頼みを断りきれず投資話に一枚噛んだ結果、恩師は逃亡。彼のぶんまで負債を背負い返済期限はもうすぐそこ。お金を掻き集めようにも時間がない。  父も母も根っからの善人。自身の苦労は厭わないけれど、他者へ迷惑をかけるのはよしとしない性質である。  その血をしっかり受け継いでいるリズベットは、使用人の再就職先として友人知人の家を紹介したし、頭だって下げた。学院の同級生の中には、へりくだる伯爵令嬢を嗤う者もいたが、貴族の矜持なんて知ったことか。助けようとしてくれる友人もいたが、みずから疎遠になった。借金取りが魔の手を伸ばしたところで、リズベットの交友関係に影響はないだろうというところまでもっていったが、どうしても切れなかったのが婚約相手。  相手は現在二十四歳の子爵令息。リズベットが学院を卒業するまで待ってくれているらしいと聞いた。  伝聞のみなので真意はわからない。  なにしろリズベットは自分の婚約が継続していることを知らなかった。ちっとも音沙汰がないものだから、とっくに破談になっていると思い込んでいたのだ。  だというのに急に連絡が入った。おそらくグレニスタ伯爵家の窮状を知ったのだろう。いままで放置していたのが嘘のように押してくる。  平民落ちする貴族令嬢には需要でもあるのだろうか。  じつは婚約者だけではなく、他の令息からも誘いがかかっているのだ。正妻としてではなく愛妾としての声かけではあるが、「うちに来ないか」という手紙が舞い込んでくるようになっている。融資を盾に迫ってきており、つまるところリズベットは、お金で買われようとしていた。
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