没落予定の伯爵令嬢は極悪執事さまがお好き?

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 社交界の華と讃えられた美人の母に似ず(・・)、リズベットはいたって普通の容姿をしている。  ただ際立って美しいと褒めそやされるのが、はちみつ色の艶やかな髪。癖のないまっすぐな髪はサラサラで、友人たちには羨ましがられる。話題のドレスや小物を身に着けていても、褒められるのは髪の美しさ。  後ろ姿で惚れられて、前を見て苦笑いを浮かべられる残念令嬢の異名を取っているリズベットである。  もはやコンプレックス。髪の話が出るとお腹が痛くなる。  町で見かける平民女性たちのなかには、まるで男性のように髪を短くして働いている者もいて、リズベットはあれを羨ましいと思っていた。  こういうのを『隣の芝生は青い』というのだ。これも外国の本で読んで憶えた言葉。  とにもかくにも金策である。  かといって身売りする気はない。愛妾として生きていくつもりはさらさらなかった。  手紙だけでは飽き足らず直接訪ねてくる男も若干名居たのだが、すべてダグラスが追い返してくれた。慇懃無礼という言葉は彼のためにあるのではないかというほどの言動で、丁寧に遮断して精神を叩き割って追い返す姿は見事といっていい。  リズベットが幼いころから兄のように慕っている父の従者の青年・ジムは「えげつねえ男だな」と顔を青くしていたが、リズベットはそんなダグラスにひそかにときめいていた。  我ながら、ちょっといろいろ終わっていると思わなくもないけれど、恋とは自分ではどうにもならないものらしいので仕方がない。  つい重い溜息を吐いてしまったとき、ダグラスもまた息を吐いた。 「覚悟はつかないとおっしゃいますか」 「そこまで人でなしではないつもりよ。負債を抱えた女が嫁いでくるのも問題だと思うけれど、今回の場合は婿入りでしょう?」 「相手が納得済なのですからよいではありませんか」 「負い目を背負ってこの先を生きていくなんて、いびつすぎるわ。どうしても回避できないのであれば、負債額を減らしてからにしようと思うのは間違っていないはずよ」
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