没落予定の伯爵令嬢は極悪執事さまがお好き?

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「……イモムシのほうがマシだわ。いつか綺麗な蝶になれるもの」 「また突然なにを言い出すんだか。そんなにも結婚が嫌ですか」 「物語のようにはいかないってわかっているのよ。物語として楽しんでいただけ」 「ではジムが言っていたことは?」 「ジムが勝手に言っただけでしょう? だってあのお話は相手が従者じゃない。わたしの場合はしつ――」  執事と口走りそうになって固まった。あわてて口元に手を当てたけれど、ダグラスの耳にはきちんと入っていたらしい。生来の察しの良さを如何なく発揮した男は、くちの端をにやりと引き上げた。 「私の聞き間違いでなければ、執事とおっしゃいましたか?」 「途中でやめたから、すべてをくちにしたわけじゃないわ!」 「言ったも同然だろ、それ」  ぼそりと吐いた言葉は彼らしくない粗野なもの。  目を見開いて驚くリズベットを見やり、ダグラスは大きく息を吐いて肩を落とした。 「なんだよジムの野郎。あの笑いは勝者の笑みじゃなくて、俺を煽るためのものだったのかよ」 「ちょ、ちょっと待ってちょうだい、あなた本当にダグなの?」 「いつもの畏まったほうが好みですか?」 「あなた、嘘をついていたのね!」 「失敬な。お仕えする主に丁寧に接するのは当然でしょう。嘘ではなく、演技ですよ」 「演技?」 「だって、そういうほうが好きなんだろう? 好んで読む恋愛小説は、お嬢様に仕える忠実な男が相手役だ」  リズベットは顔が熱くなるのを感じた。たしかにそういう物語を好んで読んでいたけれど、指摘されるとものすごく恥ずかしい。
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