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 本殿って、こんな大きかったっけ。  いつまで歩いても裏手に行き着かない。早足で進んでいるのに、板の壁はどこまでも向こうに続いて、背後の祭りだけが遠ざかる。もうどれだけ遠くなってしまっただろう。心細さに振り向こうとしたマモルは、視線の端に何かが落ちているのに気が付いた。  それをよく見て、悲鳴を上げそうになった。微かな明かりの中、乾いた地面に転がっているのは茶色の毛皮だった。四本の足を胴の下にしまったぺったんこな狐の皮が、地面に這いつくばっている。まるで剥いだ毛皮が伏せているみたいだ。ただ、買ってきた毛皮でない証拠に、狐のそばには点々と赤いしみが地面に滲んでいる。  そのしみを目で辿ったマモルは、闇の中にいっそう暗い影を見た。マモルぐらいの小さな子どもが、しゃがんで背を丸めている、ように見える影。向こうを向いた頭が微かに上下し、耳を澄ますとぴちゃぴちゃと水音が聞こえてくる。友だちの家で飼われている犬が餌を食べる時の音によく似ている。美味しそうに、舌を鳴らして食事をする時の音。  骨と皮しかないような痩せ細った影の背に息を呑んだ。その息遣いが聞こえたのか、影は頭の動きを止める。逃げなきゃ。そう思うのに、マモルの身体は全く動かない。心臓がばくばくと早鐘のように鳴り、はあはあと荒い自分の呼吸音が耳に届く。振り向かんで、振り向かんで。マモルの願いは叶わず、影はこちらに首を向けた。動画をコマ送りで見るような、かくかくとしたおかしな動きだった。  真っ黒な顔の中、口のあるべき部分は血に赤く染まり、棒切れのような手は生肉を握っていた。
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