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 ところが二日、三日と日が経つにつれ、その声は次第次第に大きくなっていった。薄い膜が一枚一枚重なり厚みを増すように、歌声が近づいてくるのを感じた。  恐ろしくなったマモルが訴えると、一緒に暮らす両親と祖母は顔を青くし、特に祖母は恐怖から手を震わせた。 「昔は、飢饉のたびに人柱ちゅうて、村のもんを生きたまま地面に埋めたんじゃ。その年は豊作になって、村は助かった。けどな、人間は恐ろしい。誰も名乗り出るもんがおらんと、子どもをつこうたんじゃ」 「おばあちゃん……」  止めようとする母に構わず、祖母はマモルの両肩にしわくちゃの手を置いて続ける。 「病気で長生きできそうにない子や、生まれつき身体の悪い子をつこうた。ほんにひどい話じゃ。いくら子どもが無邪気やいうても、許されることやない。悪い気が少うしずつ溜まって、形になったんがおかげ様じゃ」  マモルはぼんやりと祖母の話を聞いていた。居間の柱時計がコッチコッチと立てる音と祖母の声に混ざり、今夜も歌声が聞こえていた。それも、そばにいる祖母と両親、妹には聞こえていないという。不思議と、歌の中身は聞き取れない。分かる言葉のはずなのに、頭の中で文字を組み立てようとすると上手にできない。ただその中に、「マモル」という自分の名前だけを聞き取ることができる。 「ばあちゃん、ぼく、どうなるん?」 「大丈夫じゃ。ばあちゃんらがなんとかしちゃる。マモルは絶対大丈夫じゃ」  はっきりと祖母は言い切ったが、そこに全く具体的な説明がないことに、漠然とした不安と恐怖を覚えた。肩を掴む手が震えているから、どうしても説得力がない。あの声がすぐ近くまで聞こえたら、ぼくは死ぬんだろうか。歌声がどうにも楽しげに聞こえるのが、マモルには一層恐ろしかった。
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