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刺客
ジェラート王国が主催するパーティには、10を超える国の貴人が集まっていた。
ジェラートとのつながりを太くしたいと、それぞれ大量の献上品を持って参上し、宮殿の隅に山高く積まれている。
ドルチェは姫として、各国代表の挨拶を受けて回らなければならない。その数はかなりのもので骨が折れるし、口説こうとしてくる王侯だらけで精神的にもきつい。
「スーにはドルチェ姫にお見せしたい絶景があるのです。是非ご一緒にいかがですか?」
「そう。考えておくわ」
「ソットの聖杯伝説をご存じですか? どんな願いも叶える聖杯が我が王家に伝わっています」
「ふーん。使ってみれば?」
「私には優れた執政官が大勢おります。シニストラにいらっしゃれば、姫のお手は煩わせません」
「へー、あたしいらないんじゃない?」
「ジウストは、姫の助けがなければ潰れてしまいます。どうかご慈悲を」
「あっそ」
あの手この手でドルチェに取り入ろうとしてくる。
もう何人と会ったか数えられない。話しても話しても、姫の周りには人だかりがあって、まったく減らなかった。
「おい、押すなよ」
「なんだお前」
「順番守れ」
ドルチェが話に飽きて、けだるく聞き流していると、ちょっとしたトラブルが起きていた。
一人の男が強引に囲みをかき分けて、前に出てきたのであった。
「あんたがドルチェか。生意気そうだな」
開口一番に男はそう言った。
短い黒髪の若い男だ。目鼻はきりっとしているが無愛想な顔つき。パーティにしては質素な服で、ドルチェにこびへつらう王族貴族が、できるだけ豪奢に着飾っている場所ではかなり異質である。
「おい、姫様に無礼だろうが!」
「どこの田舎者だ!」
「さっさと謝れ!」
無粋なライバルの登場に、周りから怒号が飛ぶが、男はまったく構う様子がない。
「俺の名はジパングのティラミス。今日は挨拶に来た」
「え? なに……?」
突然のことにさすがのドルチェも驚いてしまう。
自分に対して敵対的な態度を示し、こんな口をきく人間なんて会ったことがなかったから。
「それだけだ。また会おう」
それだけ言うと男は、今度は逆に囲みを押しのけて出ていこうとする。
「ちょっと待って! なんなのよ!」
ドルチェはティラミスと名乗った男を追おうとする。
無礼を咎めるためではなかった。あえて自分に楯突こうとする男に興味を持ったのだ。
そして、ティラミスに底知れぬマナを感じ、その態度を取れる理由になっていると思った。
ドルチェは生まれつきマナの保有量が多かった。だが天賦の才に甘んじることなく、大賢者ズッコットに教えを受けて、強大な魔法とマナを得た。
だがティラミスと名乗る男は、そのドルチェに匹敵するマナを持っている。世界最強の名を持つドルチェが関心を持たないわけがなかった。
「姫があんな下賎なものに関わってはなりません」
「さあさ、次は私とお話をしませんか?」
ドルチェは囲みを抜けることができず押し戻され、男を追えなくなってしまう。
こんな男たちと話している場合ではない。今すぐあの男の正体を暴かないといけないのに。
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