第一章

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 それは突然のことだった。 いつものようにリビングでテレビを見ていたときの事。 強くむせたんだ。 喉を強く叩くような熱い痛みが私の喉を刺し、思わず目をつむる。 やや涙目になったまぶたを開いたら、口を押さえていた手は血まみれだった。 「う…嘘‥。」 目を大きく見開いた。 鼻血かもしれない。 そう思って鼻を噛んでみるけど、乾いたテイッシュの音がするだけだった。 日常が、崩れる音がした。 キッチンにいた母の慌てた声がした。 「伊吹っ!」 普段は冷静な母が慌てている様子をぼんやりと眺めていた。 「お母さん?」 「えーっと!保険証に‥診察券で、ケータイと水と・・・」 何やらリュックにバタバタとモノを詰め込んでいる。 ___いつもなら私に手伝えってうるさいのにな。 もちろん私も馬鹿じゃないから、お母さんが私を病院へ連れて行こうとしていることくらいわかっていた。 でも、認めたくなかった。認めたら、私は壊れそうだった。 死、入院、退学、休学、留年。 いろんな言葉が浮かんでは消える。 気がつけば、私は絶対スピード違反しているであろう母の運転する車にのって水を飲んでいた。 とにかく頭が真っ白だった。
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