第一章

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 そこからの記憶はよく覚えていない。 突然大病院に連れて行かれて、色んな検査を受けたこと。看護師さんに覚えてるかな〜って笑いながら手を振られたこと。病院の先生と看護師さんが険しい顔で検査結果を見ていたこと。 もう一度診察室へ通された。 無機質で、くぐもった診察室。 何故か母の周りには男の看護師さんが二人いて、物々しい雰囲気だった。 顔が真っ青な母の顔を眺めていたが、母は私が見ていることにも気が付かないようだった。 「残念ながら、伊吹さんに残された時間は、一年です。」 ___え?何が一年なの? 私の女子高校生だ。 ドラマだって観るし、ラノベだって読む。 だから、[残された時間]の意味は薄々わかっていた。でも、認めたくなかった。 母は泣き崩れた。 「っ・・・せっ・・・先生!なんで!この子はっ!伊吹は・・・、30歳までは生きれるって!」 「ちょっと!どういう事・・・?」 狭い診察室の人々の視線が私にぶつかってくる。 「…、お母さん、伊吹さんには言っていなかったんですか・・・。」 先生が母のことを見ていた。母は先生から目をそらす。 先生が言うにはこうだった。 生まれたときから、私は奇病にかかっていた。 二度と治らない病気。 最初に口が聞けなくなる。その後、耳も聞こえなくなり、目も白黒でしか見えなくなっていく。 血を吐きながら、それでも意識は混濁せず、苦しみながら死んでいく奇病。 「い・・・いや・・。嫌だっ!」 駄々っ子のように首をふる。 無駄な行動なのに、体はそうする。 そうしないと息が、自分が保てない_____。
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