第二章

3/4
前へ
/12ページ
次へ
「センセイ、終活するからさ、手伝ってくれない?ね?一生のお願い。」 さっさと校内の見回り終わらせて、帰ったらジャンプでも見ようかと思っていた。 が、綿密に立てた予定ほどよく崩れるらしい。 一年の教室、二年の教室、三年の教室もあとA組だけというところで、一人の生徒から足止めを食らった。 正直、面倒くさい。 「就活ぅ?お前、大学行くんじゃなかったのかよ。桃瀬。」 ここはちゃちゃっと終わらせて、ダッシュで家に帰るしかない。 そんな事を考えながら眼の前に立っている女子生徒を見下ろす。 が、女子生徒___桃瀬伊吹___は、どうやらツボにクリーンヒットしたらしく、腹を抱えて笑っていた。 「オイ、何がおかしいんだよ。」 「いや、そうだね。普通はそうなるよね!」 鈴のような笑い声を上げながら彼女はチョークを手に取った。 「しゅうかつってこっちの方ね?」 【終活】 「は?」 思わず素っ頓狂な声を上げたが、なんとか咳払いで誤魔化す。 その、黒板に書かれた妙に達筆な字の意味と、眼の前で大ウケして教卓の上に座っている行儀の悪い元気な女子高校生が、対義語とも言えるくらいに無関係だったから。 「…は?」 嘘でしょ? なにかタチの悪い冗談かと、彼女の顔を見つめ返すが、彼女は諦めたような、期待するような笑みで笑ったままだった。 「私ね、もうすぐで死ぬんだって。一年くらいかな、元気に生きられるのは。」 うつむき、足をブラブラとさせる彼女。 信じられなかった。眼の前の少女が、二十歳にもなれずに死んでいく。その事実に。 「お願い!死ぬ準備、手伝ってください。」 彼女はスタッと教卓から降りると、俺の眼の前で頭を下げた。 その姿に、俺は心を決めた。 「悪ぃが、死ぬ準備とやらはできねえ。でも、」 そこで息を吸ってから、彼女の頭に手を置く。 「死ぬ準備じゃねえよ。美しく生ききるための思い出だ。それなら手伝ってやれるぜ?」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加