第二章

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 その日から、俺の日常___もともと学校と家を往復し、帰ったとしてもジャンプを読みふけるだけの生活だったが___は壊れた。 あのあと、キョトンとした顔をしてから、嬉しそうに笑った彼女の口車に乗せられて連絡先を交換する羽目になり、解散した。 チャリで家に帰る。 途中で八百屋のオッサンに話しかけられたり、花屋のバーサンに花を持たされていたら、家についたあと、風呂から上がって、麦茶を飲んで一息つけたときにはもう時計の短い針は8を指していた。 「ったく…、ジャンプ読む時間ねえじゃん…。」 そう思いながら、スマホをちらりと見る。 3件の通知が来ていた。 [【IBUKI】からメッセージが3件来ています] 無機質な文字がほの暗い部屋の中浮き上がった。 俺は眉をしかめながら画面をタップする。 [センセー!桃瀬伊吹です。]という絵文字のないメッセージと、なんだかよくわからないスタンプが2つ。 とりあえず、 [何がしたいの?] 死ぬ前に、なんていう言葉を省くのは俺の弱さか。そう自嘲しながら送信ボタンを押す。 すぐに既読がついて、 [ん〜、リスト化してみたんだけど] [1旅行へ行きたい。  2本場の抹茶を飲みたい。  3夜の学校で全力疾走したい。  4映画を見に行きたい。  5文房具を大量買い。  6コスプレしたい。  7一日授業をサボっていけないことをする。  8非日常を味わいたい。  9可愛く着飾りたい。  10長期旅行に行きたい。  11恋人とデートしたい。(恋人じゃなくてもいい)] ___これ…、俺とやっちゃいけないことも入ってるよな。 [何点かいい?] [ん?点数でもつけるの?やめてよ〜、もうすぐ死んじゃう子にそんなことw] ふざけた返事に青筋が立ちかけた。 [まず、3、7、10、11はできねえだろ] [え〜、良くない?] [バカなの?それやったらさ、俺が社会的に死ぬよ?] [いいじゃん。待ってるよ、天国で] [死ネタやめてくんない?ってか地獄行きでしょ、そんなこと言ってたら] [いや~余命宣告受けるまでは徳を積んできたつもりだからね] [まあいいや、本題にうつんぞ] [いいじゃん] [だめだ。] [死ぬ前の遺言として聞いてよ] でもだめ、そう打とうとして、やめた。 俺はあのとき決めただろうが。 こいつに幸せな思い出を作るって。 [誰にも言うなよ] [ってか連絡繋いじゃってる時点で先生社会的に死ぬよ?] …こんの悪魔。 そうつぶやいてから、おやすみなさいって言ってるスタンプを送ってベットに潜り込んだ。 天井を眺めているうちに、飯食べそこねたなーとか、ジャンプ読みてえなーとか考えているうちにいつの間にか寝ていた。
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