菊の顔

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 昨年、春のお彼岸にお墓参りに行った時のこと。  母方のお墓の前で、私達一家は、同じくお墓参りに来た伯父(母の2つ上の兄)一家と鉢合わせる。  正直、素行も悪く借金まみれなのであまり顔を合わせたくない人達だった。  伯父一家は、花も蝋燭も持って来ておらず、本当に、ただ手を合わせる為だけに来たらしい。  伯父は両親(私の祖父母)とも仲が悪かった為、私達一家がお墓の清掃をしていても、ただぼんやりと見ているだけだった。  その後、供えられている花をかえる際、供えられていた菊の花が幾つか首の部分からコロリと落ちる。  見ていた伯父は拾うこともせず、敢えて思い切り踏みつけた。  瞬間、伯父の足の下から、 「ぎゃっ」  という声がした。  伯父が驚いて足を退けると、足の下にあったのは――菊の花ではなく、伯父自身の顔だった。  恐怖でパニックになり、伯父がよろけてしまうと、今度は別の菊の花を踏みつけてしまう。  すると、また、 「ぐぇ」  と、いう悲鳴が聞こえた。  伯父が足をどかすと、今度は菊が伯母(伯父の奥さん)の顔に変わっていた。  悲鳴をあげ、逃げ出す伯父一家。  彼等が離れると同時、踏まれた顔は、元の菊の花に戻っていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加