4人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうなんですよ。私たちが行った後、総務部のちなちゃん……じゃなくて金原さんが、社長に頼まれて拾ったんですって」
「ん? 社長の物だったのか? あれ」
うちの会社の社長はいかにもな中小企業の社長で、ゴルフのパターを握ることはあっても、バールのようなものを持つイメージはない。
「いいえー。社長のお客様のなんですって。あ、お客様というのは、昔からの上得意の上田蒲鉾店の3代目で、あれの持ち主は3代目の旦那さんの一人親方(大工)みたいです」
なんだか情報量が多すぎて、理解できないんだが。
つまり、上得意の3代目は女性で、その旦那はなぜか大工なのか。それでその大工がなぜうちの駐車場にバールのようなものを落としていったんだ?
「よかったですね。帰る間際に解決して。これでよく眠れますよ」
「ま、まあ、たしかに」
解決はしている。強盗じゃなくて、よかったということだ。
「じゃ、お先に失礼しま〜す」
「あ、羽田」
「なんですか?」
「……なんでもない。おつかれさま」
まあ、現実は小説のようにすっきり理解できるものじゃない。そういうものだ。
最初のコメントを投稿しよう!