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その時彼に特別な感情を持っていたわけではなかったけれど、憂いのある綺麗な顔なのは確かだったし、男の子に待ち伏せされて手首を掴まれるのも初めてだったから、逃げ出したい一方で、私に何の話があるのか、好奇心もあった。
「この橋で告白すると、上手くいかないんだって」
「へぇ……そうなんだ。……菱野くんの家ってこっちの方なの?」
いきなり“告白”という言葉が出て、さらに戸惑う。躊躇なくじっと見つめられてるのも耐えられなくて、話を逸らした。
「いや。家は隣町なんだけど……蒼井さん、二海書道教室に通ってたでしょう?」
「なんで知って……でも中三で止めたよ。もしかして菱野くんも通ってたとか?」
知っている名前を出されて、少し警戒心が緩んだのかもしれない。私は菱野くんの隣に並んで立った。
橋の下の紅葉川は、半月くらい雨が降っていないせいか、水位が下がりきって、ところどころ河底が覗いていた。チョロチョロ流れる水に夕陽が反射して、煌めいている。
「弟が通ってる。佑介って言うんだ。今、中三」
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