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「もう覚えてないかもしれないけど、書道教室で『覚悟』って書いた紙、一枚失くしたでしょ?」
そう言ってふたたび私を見た菱野くんは無表情に戻っていた。
「それ、弟が持ってた。引き出しの中に大事にしまってあった」
「……」
「最初、意味がわからなかったけど、同じクラスになって、蒼井さんの名前を知った時、ピンときた。あいつはたぶん……蒼井さんのこと好きだったんだろうなって」
もう止めてニ年以上経っていたし、教室では練習で何枚も書くから、その中の一枚が失くなったとしてもわからないというのが正直なところだ。勝手に持っていかれて気味が悪いかと言われると強く否定できないけど、悪気はなかったのかもしれない。
「で、でも……私、佑介くんと話したことないのに」
「話したことなくても人を好きになることあるでしょ」
「だから、どうして決めつけるの? というか……妬むって、どうして?」
気づけば無理やり抱きしめられたことへの怒りはどこかへ行っていた。それよりも菱野くんが私に向けてそんなことをしてきた理由が知りたかった。
菱野くんは川面を見つめたまま、口を開いた。
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