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あいつは荒っぽいけど、たしかに強い。独りで生きてきたことが外見からにじみ出ていた。その点ではぼくに勝ち目はなかった。けど、ぼくは納得できない。
なぜわざわざ平穏な暮らしを捨てようとするのか。
「だったら、ぼくや家族と一緒に来ればいいじゃないか! 今まで通り、なんの不安もないはずだよ?」
「彼が好きなの」
決定的な一言。ははは、ぼくは笑おうとしたけど、できなかった。
「じゃあ、私、行くわ。……さよなら」
白詰草のような甘い匂いを残して、ジュリエットはいなくなった。
もう二度と会えないかもしれないのに、彼女は一度もこちらを振り返らなかった。
「ジュリエット〜? じゅりえっと~? どこに行ったの?」
景子は家中を探していた。ぼくは何も言えなかった。
「置いてっちゃうよ? ホントに。ねえ、出ておいで~!」
景子は最後の最後まであきらめなかった。家族の中でジュリエットを一番好きだったのは景子ではないだろうか。何しろ寒空の下で死にかけてた赤ん坊のジュリエットを救ったのは彼女だったから。
「あんたのせいじゃないの? ロミオ」
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