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景子が急にこちらを振り返ったので、驚いたぼくは思わず廊下に爪を立ててしまった。
「あんたがあの子を追いかけ回すから、怖がって逃げちゃったんだよ」
ぼくは恥ずかしくて俯いた。
「お姉ちゃんも気がきいてるんだか何だか、変な名前をつけたよね、あんたたちに。ロミオとジュリエットって……結ばれない運命の名前なんだよ。知ってた?」
知らなかった。律子はそんなこと教えてくれなかったし。
でも彼女は五人兄弟の中で一番グズなぼくを選んで、うちに連れてきてくれた、大事な人だ。その日、知らない家で戸惑っているぼくと、拾われてきたばかりで弱ってたジュリエットが初めて出会った。そのときぼくたちの名を思いついたらしい。
「たまたま同じ日に私とお姉ちゃん、それぞれがあんたたちと出会ったのよね。そこは……ちょっと運命的ではあるんだけど。でも、ダメなものはダメ」
しゃがみこんでぼくに目線を合わせた景子の瞳は、なぜか悲しそうだった。ジュリエットが一緒に行かないと言ったのを知らないはずなのに。
「ジュリエットもダメって言ってたでしょ?」
ぼくは次に景子が言うことがわかった。
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