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律子がぼくの肩ごしに景子をにらんだ。
「責めてなんかないよ。お姉ちゃんがつけた名前は変だねって言っただけ」
「まだ言ってるの? 結ばれないとかなんとか」
「だって、ロミオはジュリエットを追いかけ回してたし。ロミオはジュリエットのこと」
「あれは戯れてるだけよ。小さい頃から兄妹みたいに育ったんだし」
「だからお母さんはどちらか手術したらって言ったじゃない。こんなことならジュリエットだけでもしておけば良かったわ」
「こんな急にお父さんが転勤になるなんて思わなかったんだもん。それも私だけ、学校変わるなんてさ〜。お姉ちゃん、ずるい!」
「私だって、電車と歩きで四十分もかかるんだから。あと一年もーー」
三人が言い合ってる中、車はのろのろと動き出した。
ぼくは律子に抱きしめられたまま、窓の外を見つめた。
彼女がいた。
向かいの加藤さん家の屋根の上にジュリエットの姿があった。瞳と同じブルーグレーのつやつやした毛並。景子が『捨て猫とは思えない気品があるでしょ』なんて自慢していたっけ。
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