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「なんだ? これは」
落ちていたそれを見た瞬間、思わず言葉が出た。
「あれみたいですよね。ほら、車が水没した時に窓割るやつ」
俺と一緒にそれを見下ろしていた部下の羽田が答える。
「車脱出用ハンマーだろう? 俺も自分の車に積んでるから知ってるが、こんなんじゃないぞ」
「じゃあ、何ですか? なんか大工さんが持ってるのにも似てません?」
羽田はしゃがみこみ、それに顔を近づけた。俺は正直、それが何だろうとどうでもよかった。
鉄製の棒で、片端は平たくヘラ状になってるが、もう片端は先が尖り、九十度位に折れ曲がっている。
「誰かの落としものだろう。気にするな。それより、鏑木社長の好物は買ってきたのか?」
俺が問うと、羽田は立ち上がり、制服のスカートのシワを伸ばしながら紙袋を得意気に掲げた。
「もちろんです。大変だったんですよ〜、わざわざ鎌倉まで行って来たんですから」
恩着せがましく言うが、業務時間内の話だし、ここから鎌倉までは車で一時間もかからない。たぶんこいつは目的の煎餅以外にも甘いものを買ってきたに違いない。
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