なぜそれがここに

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「とにかく行くぞ。約束の時間に間に合わなくなる」  羽田の呑気さには入社してきて三年経っても、まだ慣れない。 「主任がせっかちなんですよ〜、長生きしませんよ」  俺だってまだ三十路だ。イライラしながら、社用車の鍵を羽田に放った。羽田は慣れた様子で運転席に座ったが、すぐに窓から顔を出した。 「主任、それ、どけてもらえません?」 「それ?」 「そのスパナみたいなやつですよ」  確かにその棒状の何かは前輪のすぐ前に落ちていた。 「スパナは違うんじゃないか? あれはボルトやナットを締めるための……」 「細かいなぁ。だから主任、結婚できないんじゃないですか?」 「関係ないだろ」  今のはセクハラではないのか。 「それ拾って、総務に届けといた方がいいんじゃないですか?」  羽田の提案に俺は顔をしかめた。面倒くさい。  こんなの端に除けとけば、そのうち持ち主が取りに来るだろう。  俺はそれを蹴って、前輪から離した。それはコンクリの地面を滑り、駐車場の壁にぶつかって、止まった。 「あ、お客様のだったらどうする気なんですか? なんて扱いを」
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