なぜそれがここに

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「そうなんですよ。私たちが行った後、総務部のちなちゃん……じゃなくて金原さんが、社長に頼まれて拾ったんですって」 「ん? 社長の物だったのか? あれ」  うちの会社の社長はいかにもな中小企業の社長で、ゴルフのパターを握ることはあっても、バールのようなものを持つイメージはない。 「いいえー。社長のお客様のなんですって。あ、お客様というのは、昔からの上得意の上田蒲鉾店の3代目で、あれの持ち主は3代目の旦那さんの一人親方(大工)みたいです」  なんだか情報量が多すぎて、理解できないんだが。  つまり、上得意の3代目は女性で、その旦那はなぜか大工なのか。それでその大工がなぜうちの駐車場にバールのようなものを落としていったんだ? 「よかったですね。帰る間際に解決して。これでよく眠れますよ」 「ま、まあ、たしかに」  解決はしている。強盗じゃなくて、よかったということだ。 「じゃ、お先に失礼しま〜す」 「あ、羽田」 「なんですか?」 「……なんでもない。おつかれさま」  まあ、現実は小説のようにすっきり理解できるものじゃない。そういうものだ。
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