02 Top Of The World/カーペンターズ

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02 Top Of The World/カーペンターズ

「いい、演奏だったわ。あなたも、元日本人ね。歌う曲が邦楽のほうが割合が多い気がするもの。間違っていたら、ごめんなさい」  その日の演奏が終わって、片付けをしていたときだった。拍手をしながら近づいてきて、その美女に声を掛けられたのは。   「えっと……聞いてくれてありがとうございます」 「今日の投げ銭よ。受け取ってくれるかしら」 「え? はぁ……ありがとうございます……えっ、この金額……」  その巨乳で金髪の怪しげなお姉さんから受け取った封筒には日本円で百万円くらいの紙幣が詰め込まれていることが見るだけでわかった。帯がついている。見たことないから、見たらわかった。 「いや、こんなの……」  受け取れない、と言おうと思ったその言葉を遮るように、彼女は続けて言った。 「私、ラジオネームを『率直で素直』って言うのよ」  ※ ※ ※ 「魂のレベル?」  俺は彼女から話を聞くべく、近くの喫茶店に来ていた。この世界でもコーヒーに似た飲み物はあるし、紅茶のような飲み物もあるのだ。同じ人間だからな。似たようなものを好むし、栽培、開発して文化にするんだろうよ。 「そうよ、この世界においてお金なんて、紙幣なんて何の価値にもならない。お買い物の手段でしかない。現世界において、異世界のお金なんて微塵も価値がないしね。無価値よ、無価値。この世界でいくら稼いでもこの世界でしか通用しないんだから、意味ないわよ。そんなの。前の世界ではお金がすべてだったと思うけど、この世界では魂のレベルを上げることを考えたほうがいいわ。そして、あなたは今魂のレベルが急上昇している。トップオブザワールドなレベルよ。とてもすごいことだわ。そして、その恩恵は周囲の人にも及ぼすと言われているの。だから、あなたに接触したわけ。お金は手土産みたいなものよ。日本だと当たり前じゃない」  手土産が百万円かよ。 「魂のレベルを上げるとどう、良いことがあるんだ?」 「魂のレベルは、次の転移先、つまりこの世界から異世界転生・転移した次の世界での生きる生活レベルの指標となるのよ」 「ふーん」 「あっ、信じてないわね。宗教とか、占いみたいに思ってるんでしょ。本当なのよ? 私、この世界のことについてはかなり詳しいんだから。なんでも聞いて頂戴。助けになれると思うわ」 「そうか。それは助かるよ。俺はまだこの世界に来てほんの僅かだ。知らないことが多すぎる。じゃあ、そうだな……たとえば、ほら……あの店員。あれ、どう見ても人間ではないだろう。あれもこの世界じゃ常識なのか?」   俺が目でその店員を指す。その店員は、耳が顔よりも長く、口はタコのように尖っている。肌の色も緑に近い。 「異人種ね。地球じゃ見慣れない姿だけど、こっちじゃ普通よ。いろんな人がいるわ。みんな人間。ほら、前の世界でも黒人、白人、欧米人、アジア人……みたいにみんな違ったでしょ。でも、差別とかは良くない、違いは認めてみんな仲良く。こっちの世界でも同じ。そんな偏見を持つ人はほとんどいないわ。あなたもそういう考えがあるならすぐに捨てるべきね」 「ふーん。そうか。まあ、俺は何でも受け入れる質だから、そういうのないけど。音楽も新しいも古いも無いからな。好き嫌いせずに全部取り入れていかないと、成長できないしな」 「そう。それなら、たびに出ると良いわ。この世界を知るためにも、あなた自身を知るためにも」 「旅……旅ねぇ……」  そんな話をしていたところだった。せっかくなので現地通貨の百万円ぐらいのお金を懐にいれることを決めて、お礼を言っていたりしていたところだった。 「やあ、お客さん。楽しんでいるかな。ところで、見たところギターを弾くよう見えるけど、うちの店にもステージがあるんだ、タダでとは言わないから、何か少しやって見せてよ」 「ああ、もちろん。いいですよ」  俺は求められるのが嫌いじゃなかった。いや、素直に言おう。好きだった。認められたくてこれまでやってきたのだ。そのステージが大きくとも、小さくても、そこに用意されているのであれば、俺は精一杯の演奏で答えるのだ。 「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」 「行ってらっしゃい、弾き語りさん」  ギターを取り出し、それを持ちながら堂々とステージに立つ。みんなが聞いてくれる、色んな人が聞いてくれるステージだ。歌うならば有名な曲を一つ、しかしこの世界ではほとんど聞かれていない新鮮な曲を一つ披露するとしよう。ぜひともこの世界の皆様にも知ってほしい、愛してほしい名曲だ。しっとりとアコースティックギターで弾いて、歌い上げるから聞いてくれよな。 「異世界ラジオといいます。よろしくお願いします。さっそくですが、話していても仕方ないので、聞いてください。カーペンターズでTop Of The World」
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