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03 晩餐歌/tuki.
「俺、咲季さんの言う通り、旅に出ようと思う。資金となるお金も十分もらったしな。動画配信ならネットを繋げればこの世界の全世界に配信して届けることは引き続きできる。色んなところで歌って、色んなところで歌っている姿を色んなところに届けたい。音楽っていうのは場所とか時間とかに縛られない唯一無二の存在だと思うんだ。現世界のいい音楽をこの世界に広めていきたい。素直にそう思うよ」
喫茶店を出てから、俺は彼女にそう言った。自転車に荷物を縛り付けながら、荷造りをしながら、行く気満々で。
「そう。それなら、私もその旅についていこうかしら。社長業も飽きてきたところだったし。あなたの歌声、音楽というか選曲にとても魅力を感じていたし。私、さっきも言ったけどこの異世界に詳しいのよ。力になれると思うわ」
巨乳で金髪でお金持ちのお姉さん。エリザベス・咲季と本名らしき名前を名乗る彼女も俺の旅についてくるという。彼女が乗るのは魔法で動く、魔導バイク。めちゃくちゃゴツくてでかくてかっこいいやつ。やだ、惚れちゃう。
「安心して、後ろからゆっくりついていくから」
と言われた俺は自転車しか持っていないので、人力確定である。えっちらおっちら漕いでいかないといけない。この広い異世界。いったいどこまで行けばいいというのか。どこに行こうというのか。
カチャリ。
ラジカセを後ろに縛り付けて、スイッチを入れる。音楽が流れ出す。ラジカセ。実はこの世界で唯一覚えた魔法を使って作っている。歌って声をいれるとカセットテープになるという優れものの魔法があるのだ。俺でも使える簡単低位魔法。しかし、この世界においてカセットテープなんて存在すら知られていないので、そもそも使う人がいない。めったに見ないという意味では希少魔法だが、現代でもカセットテープは見なくなったので、どっちみち希少物だ。
歌が流れる。曲名は聞けばおわかりの通り、とても最近のナンバーだ。流行りの曲。好きなマイナー曲、超有名曲、そして流行りの曲。なんでも好む。なんでも紹介していく。それがラジオ。異世界ラジオ。
さあ、行こう。
鼻歌でも歌いながら、するりするりと、自転車を漕いでこの世界を行くんだ。文明と縛りと俗にまみれた世界で作られた音楽を持って、何も知らない、これから知っていく世界を。
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