弱る心に染みる言葉

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「すごいいい匂いだな」 「っ!」 突然背後から声が聞こえたと思えば伊織くんは私の斜め後ろに立ち、顔を近づけ近距離で呟く。 その吐息が耳にかかり思わず顔に熱が集まり心臓が高鳴った。 振り返って伊織くんの顔を見つめると整った顔立ちの彼と至近距離で目が合い、思考が絡め取られるように覗き込まれる。 (ち、近いっ⋯) 短めな髪の隙間から覗く切れ長の二重の瞳が私しか映していなくて、甘く微笑むその姿は本当に王子様のようだ。 どれくらい見つめあっていたか分からないが、先に視線を逸らしたのは私だった。 「すぐに仕上げちゃうね」 「ありがとう」 伊織くんみたいな素敵な人にあんな風に真っ直ぐ見られたら恥ずかしくて長時間目を合わせるなんてできない。 火照った熱を冷ますように私はカルボナーラのお皿に盛り付けた。 出来上がったパスタは伊織くんがダイニングテーブルまで運んでくれて、その間にスープをカップに注ぎ食卓を完成させる。 2人向き合って椅子に座り、いただきます、と手を合わせて器用にスプーンとフォークを使いパスタをくるくると巻いて口に頬張った。 我ながらいい出来だと思う。 卵黄ソースはとろっと仕上がり火が通り過ぎることもなく、生ベーコンの塩味もちょうどよくとても美味しい。
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