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きっと心春はこの結婚が契約のためそれを遂行できないことに対して申し訳ないと思っているんだろう。
俺が言い出したことなのにそれにひどく傷つく自分がいた。
自分で選んでこうしたというのに、なんて都合のいい人間なんだろうか。
そんな自分勝手な感情を押し殺すように心春の頭を撫でながら優しく呟く。
着替えをさせようかと思ったが、思ったよりも眠りにつくのが早そうだったため、一旦眠ってもらうことにした。
「そばにいてやるから、目を閉じてみな」
「うん⋯」
熱のだるさもあるのか頭を優しく撫でると心春は目を閉じ、小さな寝息が聞こえてきた。
そっとおでこに触れるとやはり熱がしっかりあるようでかなり熱い。
転職もし更には住み慣れた家から引越し環境が大きく変わったことも彼女の身体に影響を与えていたのかもしれない。
(何やってんだ俺は⋯もっと早く気づくべきだったのに)
きっと心春は少しの体調の悪さくらいなら我慢してなんとか1人でやり過ごそうとするだろう。
それくらい少し考えれば分かったはずなのに、家に帰れば彼女がいることに浮かれすぎていた。
「ごめんな⋯気づいてやれなくて」
そんな俺の言葉は誰にも聞かれることなく宙を舞って消えていく。
せっかく寝付いたため1度部屋を出て、リビングに残してきた夕食の続きを取ろうと部屋を後にした。
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