曖昧なキス

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9月頭の土曜日、私は1人ソワソワと落ち着かない時間を過ごしていた。 今日は冬麻が私たちの家に泊まりに来る日だ。 冬麻には事前に結婚したこと、今は旦那さんと一緒に暮らしていることを伝えている。 もちろんそれを伝えた直後、冬麻はめちゃくちゃ驚いていて、それと同時に何も相談せずに結婚したことが少しだけ悲しそうだった。 「ごめんね伊織くん。ご両親に挨拶する前に弟に会うことになっちゃって」 「謝ることなんてない。心春の家族に会えることは嬉しいことだよ」 しっかりと髪を整え、襟付きのシャツとパンツ姿の伊織くんはシンプルな服装にも関わらずすごくかっこいい。 本当の夫婦じゃないけどそんな素敵な彼の隣にいられることが幸せなんだと感じるようになった。 「心春」 「ん?」 私に近づいてきた伊織くんはそのまま私の腰に腕を回して自分に抱き寄せる。 突然の行動に身体が固まり、ただ彼を見上げることしかできない。 大きくてがっしりとした身体に抱き寄せられピタッとお互いの体温が溶け合う。 私を見下ろす表情はとても穏やかでその目尻は優しく下げられていた。
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