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2人の会話を聞きながら伊織くんの言葉を頭の中で何度も繰り返す。
その言葉はあらかじめ準備してあったものなのか、それとも今までの生活を見てそう思ってくれたことなのか。
はたまた本心なのか、取ってつけたようなものなのか、私にはそこまで探るすべはない。
だけどどんな意味だろうが伊織くんが言ってくれた言葉が嬉しくて思わず口角が自然と上がる。
「俺が臨床検査技師になるための学校に行くために頑張って働いてくれてるし、俺のせいで姉ちゃんが結婚とかできなかったらどうしようって思ってたから、本当に安心してます。姉ちゃんを支えてくれる人がいて」
「これから心春には俺がいるから大丈夫だ」
「はい、家族の話もある程度聞いてますか?」
「⋯大体は聞いてる」
伊織くんにはワンナイトを止められたあの日にある程度のことは伝えていた。
両親は既に離婚しており母とはほとんど絶縁状態、父は新しい家庭を築いており、贖罪の気持ちも込めてお金だけ毎月振り込まれていること。
家族と言える人物は弟しかいないということ。
だからこそその弟のためならなんだってできるんだということ。
「俺たちそんな家庭なんで姉ちゃんは俺にとってたった1人、心から大切で幸せになってほしい人なんですよ。だからそんなあまり人に言いたくないような部分まで全部ひっくるめて大切にしてくれる人が姉ちゃんにいて、心底ホッとしました」
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