曖昧なキス

11/21

6302人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
冬麻の気持ちをこんなふうに聞いたのは初めてかもしれない。 こんな機会がなかったら一生冬麻の気持ちを聞かないままだったかもしれないと思うと、このタイミングで聞けてよかった。 「心春が大変な思いをしていたのは知ってるつもりだ。これからはそんな思い絶対させない。俺が心春を幸せにするから安心してくれ」 「はい。お願いしますね伊織さん。俺の大事な姉ちゃんなので」 「約束しよう。心春の大切にするものを全てを俺が守ると誓うよ」 2人の会話を聞いていると私の瞳には自然と涙が溜まっていた。 それがバレないようにダイニングテーブルに背を向けてはぐらかすようにお皿を準備する。 あくまで冬麻の話に合わせてくれているだけだと分かっているのに、こんなふうに言ってもらえるなんて思ってもいなくて涙が出てしまう。 本当にそんなふうに思ってくれていたらいいのにな、なんて淡い期待をするが絶対後悔するだけだ。 「心春?」 「っ!」 背中を向けていたため、私の近くに伊織くんが寄ってきたことに全く気づかなかった。 涙を見られたかと思い慌てて指で目元を拭う。 冬麻はというとお手洗いに行ったようでリビングには私と伊織くんしかいなかった。 伊織くんが会話に合わせてくれているだけだと分かっている言葉も冬麻の想いも、どんどん心に広がっていき涙が溢れそうになる。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6302人が本棚に入れています
本棚に追加