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「1人でなんて泣かせない。心春が泣いていいのは俺の前だけだ」
泣きそうになる私の顔をそっと長い指で自分に向けさせ、目元に溜まる涙をゆっくりと拭う伊織くん。
その行動ひとつが優しくてまた私の目からは涙が溢れた。
「やだ⋯泣くつもりなんて、なかったのに⋯伊織くんが、嘘でもあんなこと言ってくれるなんて、思ってなくて」
「嘘じゃない。本当に思ってる」
私の顔を両手で包み込み自分のおでこと私のおでこをコツンと合わせる。
至近距離で見つめられ毛穴ひとつまで見えちゃうのではないかと思うほどの距離に息をするのもはばかれた。
「泣き顔も可愛いけど、やっぱり笑ってる顔の方が俺は好きだ」
「っ!」
「だから笑ってくれ心春」
瞬きをしたと同時に流れる涙を拭うように私の頬に優しく触れるだけの口付けを落とした伊織くん。
契約結婚の行動の範囲とは思えなくて、頭の中が混乱した。
(契約結婚の相手にキスなんて普通しないよね⋯?ならこれはどういうつもりでしたことなの?)
そんなことを聞ける訳もなく私は小さく頷くことしかできない。
涙で濡れた頬を指で拭ってくれた伊織くんは最後にもう一度私のおでこにチュッと音を立てて触れるだけのキスをした。
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