曖昧なキス

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「冬麻くんが戻ってくるぞ。笑った姿の方がきっと彼も見たいと思う」 「うん⋯そうだよねありがとう。伊織くん」 お金に目がくらんだ私が受け入れた契約結婚だというのに、伊織くんはまるで本当に私を妻として愛してくれているかのような言葉をくれる。 だめだって分かっているのに、彼を好きになってしまう気持ちに歯止めが効かない。 冬麻に誓ってくれた言葉も私に触れる指先も全てが甘く身体の奥底を痺れさせていく。 それが正常な思考を鈍らせていき、本当にそう思ってくれているのではないかという傲慢な考えを生み出していた。 伊織くんへの気持ちを押し殺すように私は彼に笑いかけ、頬に伝う涙の跡を指で拭う。 再び昼食の準備を再開した。 お手洗いから戻ってきた冬麻はきっと私が泣いていたことに気づいていたはずだが何も言ってこなかった。 それはおそらく冬麻なりの優しさであえて深く聞いてこないのは今に始まったことじゃない。 「さて、準備できたから食べよう」 「姉ちゃんの唐揚げ久しぶり!すごい楽しみ」 テーブルに広げられた唐揚げや豚汁、さらにはサラダやご飯を目の前に冬麻の目がキラキラ輝いている。 3人でいただきます、と言って各々食事を始めた。
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