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翌日、目を覚ますと目の前に広がるのは天井⋯⋯ではなく、がっしりとした厚い胸板だった。
どうやら私は朝までしっかりと伊織くんに抱きしめられていたようで、大切そうに私のことを包み込んでくれている。
そんな朝を迎えられることに私は幸せを噛み締めていた。
目を閉じていても分かるくらい伊織くんは整った顔立ちをしていてまつ毛が顔に影を作っている。
伊織くんの表情を見つめて私は昨日の夜のことを思い出していた。
触れるだけのキスから始まり、一瞬だけ絡み合った舌の熱が今でも鮮明に覚えていて蘇るだけで顔が熱くなり心臓の鼓動が早まる。
本当は聞きたい、あのキスの意味を。
だけどそれを聞いて伊織くんの本心を知るくらいならこの契約結婚のまま曖昧な距離感を保つくらいの方がいいのかもしれない。
「んん⋯⋯」
「⋯おはよう。伊織くん」
腕の中で見上げる私と視線が交わった伊織くんは一瞬目を見開きこの状況に驚いているようだった。
抱きしめているのは伊織くんだというのになぜそんな驚いた表情をするのか。
「なんで驚いてるの?」
「いや、こんな距離にいると思わなくて」
「伊織くんがずっと抱きしめてくれてたんだよ」
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