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人懐こい性格の冬麻が珍しく真剣な表情をし、私の言葉を強く否定する。
私の言葉を強く否定することがほとんどない上に、こんな顔をする冬麻を見ることがかなりレアなため思わず怖いとさえ感じた。
「俺たちには両親と言えるほどの人はいないです。だから俺がしっかり見極めないとなって思ってました。大事な家族だから、姉ちゃんを心から大切にしてくれる人じゃないと姉ちゃんの夫を任せるつもりはないって考えてました」
「⋯当然の考えだな」
「けど昨日のおふたりを見てあ、大丈夫だなって思いました。姉ちゃんって俺の前で涙を流したことないんです。ずっと俺の姉で俺に心配かけないように親の代わりをするために、絶対泣かなかった。でもちゃんと伊織さんの前では泣けるんだなってことが分かって、それができる相手がいることに安心しましたし、そんな伊織さんになら任せられるって思えました」
やっぱり昨日の涙に冬麻は気づいていたようだ。
確かに私は両親が離婚してから冬麻の前では絶対に泣かないようにしていた。
私が冬麻を守らないと、と思っていたため弟に心配をかけまいと気丈に振舞っていたのは事実だ。
歳も離れていたし親代わりにならないととも思っていたため、涙は見せないように気をつけていた。
「⋯⋯⋯義兄さん。姉をどうぞよろしくお願いします。大事な姉なんです。絶対幸せにしてください」
伊織くんに向かって頭を下げるその姿に私の涙腺が刺激される。
涙が滲み出ようとするのを必死に堪えて、下唇を噛み締めた。
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