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冬麻にそんな思いをさせていたなんて全然気づかなかった。
私が冬麻を思う気持ちが逆に冬麻を苦しめていたなんて、今まで気づけなかった自分が情けない。
「伊織さんと一緒にいる時の姉ちゃん、すげー幸せそうで、俺も見ててすごく幸せだった」
「そう、かな⋯?」
「うん、めちゃくちゃ幸せそうだったよ。本当に愛されてるんだね伊織さんに」
冬麻には私と伊織くんがそう映って見えたようだが、それは間違いだと思う。
伊織くんが私に抱いている感情は愛なんかじゃないはずだ。
私の方が伊織くんに契約結婚の妻以上の想いを抱き始めてしまっているだけで、彼はきっとそんなことはない。
最後まで真実を話せないことは心苦しいが、冬麻が安心できるならこのまま黙っているのが吉なんだと思う。
「じゃあ俺行くね。また姉ちゃんに会いに帰ってくるから、体調には気をつけて」
「冬麻こそ。身体には気をつけて、実習頑張ってね。変な人に引っかかっちゃだめだよ」
「大丈夫だよ」
タクシーの運転手にキャリーケースを預けて乗り込んだ冬麻は、最後に窓を開けて私の顔を真っ直ぐ見つめる。
正面から見る冬麻は穏やかな笑みを浮かべていた。
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