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「姉ちゃん、幸せになってね」
「⋯ありがとう冬麻」
窓を開けたままの冬麻が私に向かって手を振りながらタクシーはゆっくりと走り出した。
私もそれに返すように冬麻が乗ったタクシーが見えなくなるまで手を振り続ける。
完全にタクシーが見えなくなってから私はエントランスを通って彼の待つ部屋まで戻ると、丁度誰かと電話が終わった直後の伊織くんがいた。
分かりやすく伊織くんの表情が焦ったようで何かあったのか聞くと思いもよらない答えが返ってくる。
「心春。今から両親がこの家に来るみたいだ」
「えええ?!急に!?」
「ごめん、1回言い出すと聞かない性格で」
そもそも結婚の挨拶に伺う予定だったのに体調不良が原因で延期にさせてしまったのは私の責任だ。
しかしまさかこんな心の準備もままならないようなタイミングでお会いすることになるなんて誰も想像していなかった。
「ど、どうしよう⋯心の準備が!」
「大丈夫だ。なんとかなる」
相手は会社の社長で下手したら首が飛ぶかもしれないし、挨拶もせずに勝手に結婚した礼儀も何もない女だと思われているはずだ。
それをどう挽回すればいいのか見当もつかない。
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