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ワインレッド色のスポーツカーに乗り込もうとするとなんとあろうことか、伊織くんが助手席のドアを開けてエスコートしてくれた。
あまりにも自然な動きで何も返す言葉がなく、促されるまま乗り込んだ。
「あ、ありがとう」
私を見て小さく微笑んだ伊織くんはエンジンをかけてゆっくりと車を走らせる。
しっかり通った鼻筋や切れ長の瞳、整えられた短めの髪に腕まくりした部分から見える筋肉の筋がとてつもなく色っぽくて思わず凝視してしまった。
この人の隣にいる私は契約結婚の妻とはいえ釣り合ってなさすぎるのではないか。
そう思ってしまうほど彼は誰が見ても素敵な男性だ。
「そんなに見つめてどうした?」
「え!私そんな見てた?」
「すごく見られてた」
無意識のうちに視線は彼に吸い込まれていて、私の心がぎゅっと掴まれたような感覚に陥る。
ドキドキと鼓動が早まり締め付けられるように胸が痛んだ。
こんなに近くにいるのに触れ合えないもどかしさや、言葉にできない想いに葛藤が生まれる。
意識した途端、今までどうやって伊織くんと話していたか分からなくなってしまった。
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